あの時の記憶
―あの時の記憶―
Produced By 双月蒼羽
僕は全速力で草むらを走り抜ける。石に当たった事による足の痛みを無視しながら、ただひたすら。
後ろから『大きな何か』が木の枝を持ち、追いかけてくる。この先に硬い地面があり、そこを越えた所には家がある。
そこまで着けば大丈夫。僕は自分にそう言い聞かせ、草むらから飛び出した。自分の足に硬い感触が伝わってくる。辺りは薄暗く、点々と光が見える。
僕は硬い地面を横断するため、前へ走り始めた。
――突如、今まで以上に地面が明るくなった。僕はそれを疑問に思い、光があるらしい方を向く。
……その時、僕は見た。黒い鉄の塊が目を光らせ、僕を殺そうと突っ込んで来るのを。
僕は逃げようとするが、いかんせんやつの方が速い。当然逃げることも出来ず、僕の体は宙を飛んだ……。
†
自転車がギコギコと音を立てている。
さっきまでは激しかった車の往来は途絶え、この音だけがこの空間に響いている。
「……もう少しで着くかな」
車の音がなくなり、なんとなく寂しくなったので、誰ともなしに呟いてみる。
僕が高校に入学してから、通学の方法は徒歩から自転車に変わった。それにより、片道10分程度だったのが片道50分にまでなってしまったのだ。……これでも近い方だが。
「……腹減ったなぁ」
その上、割と真面目な部活に所属しているため学校を出る時間は遅い。その結果、いつも家に着くのは9時前だ。当然の如く腹は減る。
僕は早く飯にありつくため、車が来ない事を確認して車道に出た。ギアを最大にし、立って自転車を漕ぐ。
少し走ると、道路に出っ張りの様なものを見付けた。僕はそれを疑問に思い、ライトを当てる様に自転車を操縦した。
「――ッ!」
……それは、車にひかれた小動物の姿だった。なんだろうか? 大体犬くらいの大きさだが。……鼬(いたち)?
開いた瞼から除く目は冷たく濁り、『驚愕』の言葉が合う様な表情をしている。……不意にひかれたのだろうか?
「……早く帰らないと」
初めてまともに見た、動物の亡骸。僕は自分が何をすればいいのか分からず、そのまま走り去った。
†
ギコギコという自転車の音に加え、走る様な音が聞こえてきた。ランニングをしている人でもいるのかと思い、下を向いていた顔を上げる。しかし……
「……あれ、いない」
誰も見当たらない。だが、走る様な音はまだ続いている。仕方なしに、僕は後ろを向いた。
「――ッ!」
そこにいるのは、さっき死んでいたはずの『鼬だったモノ』。冷たく濁った目はそのままで、何故か僕を追って来ている。
――シャアアァァァ!
走りながら鼬は咆吼を上げる。そこまで大きな声ではない。……しかし、僕を恐怖の渦に引きずり込むには充分だった。
早く逃げないと……殺される!
そんな考えが僕の中で渦巻く。思考がだんだん止まって行くのがわかる。
「うわ…うわあぁぁぁ!」
疾風の如く、僕は自転車を走らせる。今まで出したこともないような力を出し、全速力で道路を駆け抜ける!
怖い怖い恐い恐いこわいこわいコワイコワイ……
道路を駆けながら、僕は恐る恐る後ろを振り向いた。
――シャアアァァァ!
突き放したどころの話じゃない。こいつは……どんどん僕との差を縮めていっている。
……刹那、鼬が赤く光る爪を振り上げながら大きく跳躍し、切りかかって来た!
「――ひっ!」
僕は脅えて頭を下げる。それにより、鼬はさっきまで僕の頭があった空間を切り裂き、目の前に着地した。
「うわわっ!」
そして、いきなり鼬が前に出た事により急遽ハンドルの向きを変えてしまった。それによってタイヤが滑り、転んでしまう。
片足が地面と自転車の間に挟まり、すぐには抜け出せない状態。僕はなんとか這い出て、辺りを見渡す。
……目の前に、濁った目をし、爪を光らせる鼬がいた。
「……うわあぁぁぁ!」
転んだショックで軽くなっていた恐怖。それを再び思い出してしまい、絶叫する。
「わあぁぁぁぁ!」
恐怖は消える事を知らず、それどころか増大していく。
僕は転んだ際に強く擦り剥いた傷も無視して、全速力で走り始める。
しかし、ろくに走らない人間と、走る事が普通の獣。……勝負になるはずがなかった。
――スパッ!
追い付いていた鼬が、後ろから僕の右腕を切り裂いた。切られた所からは真紅の水が吹き出し、僕の恐怖感を増大させる。…命の危機にさらされているためか、既に痛みは感じなくなっているが。
「来るな……来るなあぁぁっ!」
既に動かせなくなった右腕を垂らしながら、僕は逃げ続ける。しかし……
――スタッ
目の前で、何かが着地する音が聞こえた。その音が何を意味するかは明白。
……………
一瞬の静寂が、とても長い時間に感じられる。
「なんだよ……僕が何かしたってのかっ!」
恐怖からか、諦めからか。熱い液体が、僕の頬を伝う。過去の記録が脳内を駆け巡る。
そして思い出した、……幼き日の事を。ある夕暮れ、草むらで小さな鼬を追い回して遊んでいたら、鼬が道路に飛び出してひかれ、生き絶えた事。
――幼き日起こした、心の奥底へ封印してしまった大きな過ち。
「――ッ! そうか…だからお前は、あの鼬の代わりに僕を殺しに来たのか」
シャアアァァァ!
鼬は僕の呟きを肯定するように叫ぶ。……既に、恐怖はなかった。
鼬が僕に向かって大きく跳躍し、僕に向かって紅に染まった爪を振り下ろす!
「あの世で、あの鼬に謝っとかないとな……」
……ごめん、ごめんなさい。あの日、幼かった故に途絶えさせてしまった、1つの小さな命。
次の瞬間。頬の液体は紅の液体と混じり、漆黒の闇に浮かび上がった。
数分後、車が来た。鼬の姿は既にない。
運転手が見たものは、血と涙を流しながら微笑む、少年の亡骸。ただそれだけだった……。
―後書き―
どうも、第二回イチブイリーグにて惨敗(1勝3敗)した蒼羽です。……その分の罰ゲームは断じてしませんからねっ!
一応ミステリーに仕上げたつもりですが……どうですかね? むしろホラーな気がします。……怖さがあるかは不明ですが。
この話ですが、私の処女作と言っても良さそうな作品です。また、十六夜・詠人に加筆・修正も頼んでいませんので、完全に単独での作品です。……本来それが普通ですが(汗)
なので、色々と問題のある表現や矛盾点はあると思います。それらを見つけた際は、非公開でも公開でも構いませんので、指摘してもらえれば幸いです。
さてさて、次はファンタジーか。……こちらの発表はなかなか遅れそうです。すみませんorz
それにしても、私の作品の始まりって、いつも走ってるなぁ…
追伸:『Reverse Magical KIMUTI』の集計は本日中にする予定ですので、暫しお待ちを
それではこれにて
Produced By 双月蒼羽
僕は全速力で草むらを走り抜ける。石に当たった事による足の痛みを無視しながら、ただひたすら。
後ろから『大きな何か』が木の枝を持ち、追いかけてくる。この先に硬い地面があり、そこを越えた所には家がある。
そこまで着けば大丈夫。僕は自分にそう言い聞かせ、草むらから飛び出した。自分の足に硬い感触が伝わってくる。辺りは薄暗く、点々と光が見える。
僕は硬い地面を横断するため、前へ走り始めた。
――突如、今まで以上に地面が明るくなった。僕はそれを疑問に思い、光があるらしい方を向く。
……その時、僕は見た。黒い鉄の塊が目を光らせ、僕を殺そうと突っ込んで来るのを。
僕は逃げようとするが、いかんせんやつの方が速い。当然逃げることも出来ず、僕の体は宙を飛んだ……。
†
自転車がギコギコと音を立てている。
さっきまでは激しかった車の往来は途絶え、この音だけがこの空間に響いている。
「……もう少しで着くかな」
車の音がなくなり、なんとなく寂しくなったので、誰ともなしに呟いてみる。
僕が高校に入学してから、通学の方法は徒歩から自転車に変わった。それにより、片道10分程度だったのが片道50分にまでなってしまったのだ。……これでも近い方だが。
「……腹減ったなぁ」
その上、割と真面目な部活に所属しているため学校を出る時間は遅い。その結果、いつも家に着くのは9時前だ。当然の如く腹は減る。
僕は早く飯にありつくため、車が来ない事を確認して車道に出た。ギアを最大にし、立って自転車を漕ぐ。
少し走ると、道路に出っ張りの様なものを見付けた。僕はそれを疑問に思い、ライトを当てる様に自転車を操縦した。
「――ッ!」
……それは、車にひかれた小動物の姿だった。なんだろうか? 大体犬くらいの大きさだが。……鼬(いたち)?
開いた瞼から除く目は冷たく濁り、『驚愕』の言葉が合う様な表情をしている。……不意にひかれたのだろうか?
「……早く帰らないと」
初めてまともに見た、動物の亡骸。僕は自分が何をすればいいのか分からず、そのまま走り去った。
†
ギコギコという自転車の音に加え、走る様な音が聞こえてきた。ランニングをしている人でもいるのかと思い、下を向いていた顔を上げる。しかし……
「……あれ、いない」
誰も見当たらない。だが、走る様な音はまだ続いている。仕方なしに、僕は後ろを向いた。
「――ッ!」
そこにいるのは、さっき死んでいたはずの『鼬だったモノ』。冷たく濁った目はそのままで、何故か僕を追って来ている。
――シャアアァァァ!
走りながら鼬は咆吼を上げる。そこまで大きな声ではない。……しかし、僕を恐怖の渦に引きずり込むには充分だった。
早く逃げないと……殺される!
そんな考えが僕の中で渦巻く。思考がだんだん止まって行くのがわかる。
「うわ…うわあぁぁぁ!」
疾風の如く、僕は自転車を走らせる。今まで出したこともないような力を出し、全速力で道路を駆け抜ける!
怖い怖い恐い恐いこわいこわいコワイコワイ……
道路を駆けながら、僕は恐る恐る後ろを振り向いた。
――シャアアァァァ!
突き放したどころの話じゃない。こいつは……どんどん僕との差を縮めていっている。
……刹那、鼬が赤く光る爪を振り上げながら大きく跳躍し、切りかかって来た!
「――ひっ!」
僕は脅えて頭を下げる。それにより、鼬はさっきまで僕の頭があった空間を切り裂き、目の前に着地した。
「うわわっ!」
そして、いきなり鼬が前に出た事により急遽ハンドルの向きを変えてしまった。それによってタイヤが滑り、転んでしまう。
片足が地面と自転車の間に挟まり、すぐには抜け出せない状態。僕はなんとか這い出て、辺りを見渡す。
……目の前に、濁った目をし、爪を光らせる鼬がいた。
「……うわあぁぁぁ!」
転んだショックで軽くなっていた恐怖。それを再び思い出してしまい、絶叫する。
「わあぁぁぁぁ!」
恐怖は消える事を知らず、それどころか増大していく。
僕は転んだ際に強く擦り剥いた傷も無視して、全速力で走り始める。
しかし、ろくに走らない人間と、走る事が普通の獣。……勝負になるはずがなかった。
――スパッ!
追い付いていた鼬が、後ろから僕の右腕を切り裂いた。切られた所からは真紅の水が吹き出し、僕の恐怖感を増大させる。…命の危機にさらされているためか、既に痛みは感じなくなっているが。
「来るな……来るなあぁぁっ!」
既に動かせなくなった右腕を垂らしながら、僕は逃げ続ける。しかし……
――スタッ
目の前で、何かが着地する音が聞こえた。その音が何を意味するかは明白。
……………
一瞬の静寂が、とても長い時間に感じられる。
「なんだよ……僕が何かしたってのかっ!」
恐怖からか、諦めからか。熱い液体が、僕の頬を伝う。過去の記録が脳内を駆け巡る。
そして思い出した、……幼き日の事を。ある夕暮れ、草むらで小さな鼬を追い回して遊んでいたら、鼬が道路に飛び出してひかれ、生き絶えた事。
――幼き日起こした、心の奥底へ封印してしまった大きな過ち。
「――ッ! そうか…だからお前は、あの鼬の代わりに僕を殺しに来たのか」
シャアアァァァ!
鼬は僕の呟きを肯定するように叫ぶ。……既に、恐怖はなかった。
鼬が僕に向かって大きく跳躍し、僕に向かって紅に染まった爪を振り下ろす!
「あの世で、あの鼬に謝っとかないとな……」
……ごめん、ごめんなさい。あの日、幼かった故に途絶えさせてしまった、1つの小さな命。
次の瞬間。頬の液体は紅の液体と混じり、漆黒の闇に浮かび上がった。
数分後、車が来た。鼬の姿は既にない。
運転手が見たものは、血と涙を流しながら微笑む、少年の亡骸。ただそれだけだった……。
―後書き―
どうも、第二回イチブイリーグにて惨敗(1勝3敗)した蒼羽です。……その分の罰ゲームは断じてしませんからねっ!
一応ミステリーに仕上げたつもりですが……どうですかね? むしろホラーな気がします。……怖さがあるかは不明ですが。
この話ですが、私の処女作と言っても良さそうな作品です。また、十六夜・詠人に加筆・修正も頼んでいませんので、完全に単独での作品です。……本来それが普通ですが(汗)
なので、色々と問題のある表現や矛盾点はあると思います。それらを見つけた際は、非公開でも公開でも構いませんので、指摘してもらえれば幸いです。
さてさて、次はファンタジーか。……こちらの発表はなかなか遅れそうです。すみませんorz
それにしても、私の作品の始まりって、いつも走ってるなぁ…
追伸:『Reverse Magical KIMUTI』の集計は本日中にする予定ですので、暫しお待ちを
それではこれにて
by rainbow-dice
| 2007-10-15 21:26
| 創作物